C/1996 B2 (Hyakutake) 百武彗星

1996年の大彗星。

1996年に出現した大彗星・百武彗星C/1996 B2の発見から、今日・1月31日でちょうど20年です。前年にはヘール・ボップ彗星C/1995 O1が発見されていましたが、明るくなるのはその翌年。私が彗星を見始めたのは1986年(ハレー彗星)なので、名実共に大彗星と呼べる彗星を見たのはこの百武彗星C/1996 B2が初めてでした。

ただ、それまでも大彗星になると言われて不発に終わる彗星は何個も見てきたので、この百武彗星が1等級の大彗星になると聞かされても(そしてヘール・ボップ彗星でさえも)半信半疑でした。

(インターネットを利用していなかった)私がこの発見を知るのは、本来であれば発見1ヶ月後の3月1日~5日発売の天文雑誌だったはずですが、大彗星の情報自体はマスコミにも伝わっていたので、発売前の比較的早い時期に存在を知ることができました。

しかし2月の段階ではまだ暗く一般人が見る明るさではなかったので、テレビや新聞からは正確な位置を知ることは出来ませんでした。そのため、例えば渋谷のプラネタリウムまで行って、その時の解説員の説明から近日点通過日やその距離などの断片的な情報を得たり(人見知りだったので直接解説員さんに軌道要素を聞きに行く勇気はなかった)、報道された発見位置などから、おおよその軌道を推定しました。そこから決定した大まかな位置から彗星「捜索」を行って、2月19日の朝、無事百武彗星を「発見」して観測することができました。

2016B2top.JPG 星図に記した「捜索」図。彗星があった位置はもう少し左で、そのページの書き込みは(残念ながら)消しゴムで消していました。

南に低く、ベランダから見えていたこの彗星は、既にかなり成長していて、明るい9等星として南の空に輝いていました。この時の輝きは、本当に大彗星になるかもしれない!?という期待を抱かせるには十分でした。

幸いこの年の春は天候に恵まれ、成長していく様子をつぶさに観測することができました。わずか数日観測が開いただけで見違えるほど巨大化。気づいた時には肉眼でもはっきりわかる彗星として成長していました。

地球最接近は3月25日頃でした。この時期、曇りの日も多く毎日観測することは出来ませんでしたが、24日には夜明け前の空の雲間から、丸い大きなコマが輝いているのがわかりました。この時はマイナス0.0等と観測しています。

最接近の頃はほぼ天の北極に位置していたので、一晩中彗星を見ることができ、晴れた晩には睡魔と戦いながら、しかし興奮しながら出来る限り彗星を見続けました。必ずしも透明度の良い空ではありませんでしたが、それでも北斗七星を貫く尾が淡く、しかし長く伸びているのがわかりました。どこまで伸びているのかまったく見当が付かず、とりあえず30°くらいと見積もりました。実際には最大で100°にも達し、彗星が見えないはずの南半球でも地平線から尾だけが見えたそうです。

彗星本体は全天で最も明るい星となって輝き、当時のFMラジオでパーソナリティーが「(横浜の空で)百武彗星を探したけど北極星しか見えなかった~」と話していたのを聞いて、「それが彗星だよ!」と頭の中でツッコミを入れたりもしていました。都会の空でも明るいコマだけはよく見えたようです。

1996B2_20160129.JPGめったに撮らない写真もフィルム1本ぶん撮りました。

地球最接近のあとは、5月1日の0.3auの近日点通過に向けて(一旦減光した後)さらに増光すると期待されました。しかしながら、形こそ彗星らしく尾が濃くなっていきましたが、光度としては2~3等級に落ちたままで4月中旬には太陽に接近して視界からは去ってしまいました。夕方の早い時間に路上で見ていたので、通りかかった人から声を掛けられることもありました。

近日点通過後は南半球に移ったため、日本から見ることは出来ませんでした。南半球では、形の美しい彗星として見られたものの、光度はあまり明るくなかったようです。

彗星のグラフ

1996B2mag.png

私が観測したのは2月19日から4月18日までのちょうど2ヶ月間。光度式はm1 = 5.68+5logΔ+9.83 log rという(ハレー彗星よりも暗い程度の)一般的な彗星で、地球接近によって0等級まで増光したことが分かります。

1996B2maga.png※絶対光度のグラフ

ただ、絶対光度(1auから見た光度)で改めて見ると、地球接近の頃に不自然に明るい(1等程度)ことがわかります。他の観測者の観測値COBSより)も同じ傾向にあります。後の研究では地球接近という絶好のタイミングでアウトバーストがあり、相乗効果で輝いて見えたようです。

1996B2coma.png

ためしにコマの実直径でプロットしてみると、近日点に近づくにつれコマが縮小していくという興味深い結果が得られました。これも、他の観測者の値でも似たような傾向が見られます。

投稿日:


観測記録一覧

1996B2_001-editPosi.png

  • 18.80UT m1=9.0, DC=5, dia=5' (8.0cm屈折 46x) ※光度値は2016年1月9日に再評価。

なかなか好天に恵まれず観測が遅れた。さらに正確な位置を知らなかったため見つけられるか不安であった。かなり明るく集光していたので少々驚いた。コマも大きく東西に伸びている??核が認められる。光度はかなり明るく9等以上は確実。しかし双眼鏡7×50ではまだ無理。3月下旬には1等級になるか?

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1996年3月2日4時20分。ポジスケッチ(黒画用紙に白鉛筆。室内で作業)

  • 01.81UT m1=7.3, DC=5, dia=7' (8.0cm屈折 46x) 

(ポジスケッチの文)核の鋭い輝きがある。拡散は連続的である。

彗星は、視野で最も明るい星である。コマの外周はどこまで拡がっているのかわからない。西に大きく尾を思わせる。核はコマの輝きに埋もれている。光度は西の7.5、8.0等の組と同じ程度。

1996B2_010-editPosi.png

  • 02.79UT m1=7.0, DC=6, dia=10' (5.0cmB 7x)

前日に比べかなり明るい気がする。コマの集光、輝度がさらに高い。コマは西に偏り、尾を思わせる。細かな構造はわからない。核がよく輝く。ちかくの星くらい。光度の見積もりはかなり難しい。±0.3等はあるだろう。C/1996 B1は明瞭に見えず。10.0等程度か?ちかくの3486も明瞭でない。

1996B2(Posi)_003-editPosi.png

(※ポジスケッチ)

  • 11.79UT m1=5.3, DC=5, dia=8' (8.0cm屈折 23x)

東にはまだ下弦の強い月明が残って7等星がかすんで見える。必ずしも見栄えのする姿ではないが、増光は急なようだ。α2Lib(5.1)やνLib(5.2)と比較しても見劣りしない明るさ。コマは形状に大きな変化はない。内部コマは1'以内はかなり明るく、核かと思うほど。核自体コマに埋もれて見にくい。

1996B2_015-editPosi.png

  • 13.72UT m1=5.0, DC=5, dia=10' (8.0cm屈折 23x)

春がすみのため透明度が非常に低いが、それでも明るく見える。コマは低倍率では太陽の方向に偏心している(尾)。核は151倍で内部コマの中に弱く鋭い輝きとしてある。内部の構造はあまり明瞭ではないが、太陽に面して平たいような気もする。光度は難しいがα2Lib(5.15~5.33)より明るいようだ。

1996B2_016-editPosi.png

  • 13.74UT m1=4.5, DC=-, dia=15' (5.0cmB 7x)
  • 13.75UT m1=4.5, DC=-, dia=-' (Eyes 1x)

7等星がかすかであるが彗星は明瞭。一見して5等星並みの光度である。コマは集光が強いが大きくなっている。光度の見積もりは難しく、同光度のλVirやιLibと同じくらい。肉眼でも辛うじて確認できる。αLibのすぐ左上に乗っている感じ。光斑。

1996B2(Posi)_005-editPosi.png

  • 15.74UT m1=4.1:, DC=5, dia=20' (8.0cm屈折 23x)

すぐにコマが偏心していて、尾の方に伸びているのがわかる。太陽側のコマは少し圧縮されている。しかしごく中心は、むしろ太陽側の方がコマが濃いようにも見える。核は明るさに埋もれシーイングが悪いためわかりにくい。尾は幅が広いが長く伸びている。光度は比較星から求めるのはほぼ絶望である(α1Libとξ2Libの中間くらい)。

1996B2(Posi)_006-editPosi.png

1996年3月21日4時10分。8.0cm屈折46倍。ポジスケッチ。

  • 20.76UT m1=2.5:, DC=5, dia=20' (8.0cm屈折 46x)

ポジスケッチでもイメージをあらわしにくい。核だけは異様に明るい。コマは巨大。

コマの輝度の上昇に比べ、核光度がかなり目立ち非常によく輝く。とにかく大きい。高倍率では核は1'以下の内部コマの輝きに埋もれる。尾は淡いがはっきりしている、扇状か。光度は双眼鏡などからの類推でしかない。移動がかなり速くなっている(1時間で20')。

1996B2(Posi)_007-editPosi.png

  • 20.78UT m1=2.3, DC=5, dia=30' (5.0cmB 7x)

(ポジスケッチ)時間が無く観測後のスケッチ。コマや尾のなめらかな輝きをあらわすのが難しい。尾が太く重星の南へとのびている。

一目で尾がわかる明るさ。集光が非常に強く核がはっきりしている。尾は幅が広く、透明度さえよければもっと伸びていそう。光度は比較星にも困るほど。αCrBよりわずかに暗いか。

1996B2_022-editPosi.png

  • 20.79UT m1=2.1, DC=-, dia=18' (Eyes 1x)

最初肉眼で彗星位置付近を見て、いきなり2等の彗星が目に入った。これだけはっきり見えるのは初めて。光度はついに1P/ハレーの2.8等(1986年3月25日)を上回った。ちょうど10年ぶりである。核のはっきりした小さい雲状。月ほどには見えない。尾があったかも。肉眼でも光度比較星に困る。

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1996B2_023.png 1996年3月22日22時50分(22.58UT)

150倍による中央部のスケッチ。K.20(46倍)で核からジェット状の尾が伸びているのがわかった。長さは3'程度だが、さらに伸びているかも。わずかに曲がっているようにも思えたが錯覚か?視野全体がコマの輝きに埋め尽くされている!


1996B2(Posi)_009-editPosi.png

1996B2(Posi)_009.png 1996B2_025.png

  • 22.73UT m1=1.0:, DC=5, dia=55' (8.0cm屈折 23x)

核付近のジェットは尾とわずかに方向が異なっているかもしれない(ジェットが反時計回り方向に)。また、太陽方向に微かだが、やはりジェット状のものがある。コマは太陽方向には圧縮されている。また、平たくなっている。K.20(46倍、1°)の視野全体が白っぽく、コマ内にある。

23日0時24分20秒(双眼鏡ネガスケッチ)

1996B2_024-editPosi.png

1996B2_024.png

  • 22.64UT m1=0.8:, DC=4-5, dia=60' (5.0cmB 7x)

コマのあまりの明るさに圧倒される。輝きは中心から周辺へほぼ連続的にに淡くなっている。核の鋭い輝きがよく目立つ。コマは明らかに偏心しており、尾側の方が大きい。尾がかなり伸びている。双眼鏡の視野いっぱいに拡がっているかと思うほど。付け根では南の方が少し濃い?

23日2時09分(ポジスケッチ)

1996B2(Posi)_008.png

尾=10°。天頂付近で見てみると、尾が2つに分かれ、イオンの尾は驚くほど伸びている。幅もある。紙からはみ出る!

1996B2(Posi)_010.png

  • 22.74UT m1=0.4, DC=5, dia=60' (0.0cmEyes 1x)

αBoo(アルクトゥールス)にも引けを取らない明るさ!地平付近ではαVir(スピカ)並みの明るさであった。核がはっきりしている。天頂付近にきて、初めて尾が伸びていることがわかった。とくに3°以内は明るいが注視すると、αBooの下まで10°近くのびているらしい。といってもかなり淡い。天の川なみか?

1996B2(Posi)_011-editPosi.png

  • 26.55UT m1=0.5:, DC=-, dia=30' (8.0cm屈折 46x)

核からのびる細い尾が印象的。10'以上はのびている。太陽方向に扇状にダストが出ている。コマは西側の方が拡がり、尾の近くでくびれている。傘のような形をしている。まさに19世紀のスケッチに見るようなコマの形をしている。移動の速度が異常に早く、秒単位で見え方が変わる。

(補足)

このスケッチの時刻は、秒単位まで記録しています。気まぐれで記載したものではなく、説明にも記述していますが、秒単位で正確に記録しないとどんどん移動してしまうためです。

この日は写真でも撮影していました。ただ、望遠鏡の直焦点による固定撮影でしたので、30秒の方は日周運動によって移動し、淡い部分はほとんど見えていません(8センチ屈折910mm、10秒と30秒)。彗星の核付近は色鮮やかで、太陽側(コマが扇状)がピンク色、尾の側(細い尾)が青かった記憶がありますが、スケッチではそのことについて記録がありません。スケッチも取った記憶があるのですが、散逸したか、もしかしたら翌年のヘール・ボップ彗星のスケッチと記憶を混同しているのかもしれません。

p_1996B2_005-edit.jpg p_1996B2_006-edit.jpg

1996B2_028-editPosi.jpg

  • 26.68UT m1=0.4, DC=5, dia=50' (5.0cmB 7x)

透明度と高度が低いためなんとも見にくいが、それでも長い尾はわかる。とくに(1)の範囲ははっきりしており、幅も1~2°ある。さらに恒星の連なりに沿って(2)の部分がわかる。この付近は細い(幅約1°)。さらに(3)へと伸びているようだが、この辺は自信はない。コマは右下の図のように変形している。尾の付け根とコマの端は連続している。

1996B2(Posi)_012-editPosi.png

  • 26.70UT m1=0.0, DC=5, dia=90' (0.0cmEyes 1x)

よく輝いてすぐわかる。光度は夕方、αAur(カペラ)と彗星が同じ高度になった時に比較し、彗星の方がわずかに明るかった。また、αLyr(ベガ)よりはわずかに暗く感じられる。コマはβ~γUMiの間の2分の1の大きさ。尾は8°以内はわりと見やすい。とくに3°以内ははっきりする。少なくともκDraの西までは伸びている。もしかするとδUMaまであったかもしれない。

(補足)ポジ(黒地)画像は、観測時の印象を正確に表すために観測直後に描いたものです。左上に北斗七星(一部)、右下にこぐま座(真ん中の5等星は見えていない)があります。

この日は一眼レフ(50mmF2?ISO400?)での写真も撮影しています。記念撮影的なもので画質はかなり悪く、プリントをスキャンしたものです。退色が進んで青みがかっており、スキャン時のホコリやガラス面の曇りが写り込んでいます。画像処理やトリミングはしていません。

p_1996B2_001.jpg26日23:44(30秒)

この写真の真下に北極星、右上にβUMiがあります。残りの写真は記事の続きにて。

1996B2_030-editPosi.png

  • 26.72UT m1=, DC=-, dia=' (8.0cm屈折 152x)

'96B2はぐんぐん移動していく。ほんの10分前は重星と直角を成していた(補足:重星のすぐそばにあり三角形を作っていた)。核からの尾は末端に向かって幅を広げつつ、細く見える。太陽側の扇状の部分は22時とわずかに形を変え、西側の扇の端がわずかに後方に回転しているように見える。核の脇の9等星がコマでかすんで見える。光度はαLyrよりわずかに暗いようだ。

1996B2_037-editPosi.png

  • 12.45UT m1=3.0, DC=7, dia=8' (8.0cm屈折 46x)

透明度が良く久しぶりに長い尾が見えた。尾の付け根付近では端はかなり明瞭で、末端に向かって幅が拡がっている。かなり、細くなりつつ伸びている。コマは小さくコマと尾の濃度はあまりかわらない。核は明瞭である。光度変化が位相によるものだとすれば、下旬にマイナス2等になるだろう。

1996B2(Posi)_013-editPosi.png

  • 12.47UT m1=2.9, DC=7, dia=10' (5.0cmB 7x)

(ポジスケッチ)まっすぐ伸びた尾がすばらしい。核の輝きは122Pのよう。尾は1Pか。

1996B2_038.png

コマがよく輝く。尾は幅を広げつつ伸びている。βPerより先にあるようだ。とくにρPer辺りまでは濃く、容易に認められる。光度はζPer(2.85等)並み。肉眼で存在のみが辛うじて認められる。C/1996 B1は見えず。

(追記)この日撮影した写真です。左上の輝星は金星。その下にプレアデス星団が写っています。一眼レフ・F2?・ISO400?。

p_1996B2_013.jpg19時32分(20秒露出)

p_1996B2_014.jpg19時36分(40秒露出)

1996B2_040-editPosi.png

  • 15.46UT m1=2.1, DC=9, dia=' (5.0cmB 7x)

恒星かと見間違うほど。淡く尾が伸び、彗星とわかる。光度はβPerより少し(0.2~)暗いが、高度差を考えるとほとんど同じだろう。3日前と比べ確実に上がってきている。光度変化に位相が影響していれば5月1日頃に昼間に観測できる(マイナス2~3等)かもしれない。

1996B2(Posi)_014-editPosi.png

  • 18.45UT m1=2.8, DC=8, dia=3' (8.0cm屈折 46x)

(ポジスケッチ)コマから尾が風に吹かれるように流れ出る。

1996B2_041.png

シーイングがどうしようもなく悪い。核が非常にはっきりしている。コマは非常に小さく核の周りにオマケで付いている感じ。尾は小さいコマから扇状に吹き出していてくっきりとひろがって見える。幅が太く、かなり伸びている。

1996B2_042-editPosi.png

  • 18.45UT m1=2.8, DC=9, dia=5' (5.0cmB 7x)

恒星状の核が右の星ぐらいの明るさで見える。低空で星があまりみえないが、その星を縫うように尾が伸びている。幅がひろがって彗星らしい。光度はあまり上がっていない。ρPerより多少明るい。ηTauくらい。

追記)この日は写真でも撮影しています。微かですが尾もわかります。50mm一眼レフ・F2?・ISO400?。

p_1996B2_016.jpg19時30分(露出15秒)

p_1996B2_017.jpg19時30分(露出30秒)