C/1988 A1 (Liller) リラー彗星

まとめ。

1988年最初に発見された彗星です。カタカナ表記ではライラー彗星とも、リラー彗星とも書かれています。出現当時は英語風の「ライラー」表記の方が優勢でしたが、近年は「リラー」表記の方が多いようです。もっともスペイン語なら「リイェール」に近い発音でしょう(llはyやjに近い音なので)

この彗星は、私にとっては2年前のハレー以来、5つめに見た彗星でもあり強く印象に残っています。2月の夕方の低空に望遠鏡を向けて、何とか淡い姿を見いだした思い出がありますが、皮肉なことにその姿はゴーストか何かの見間違いだったようです。

彗星は2月まで夕方の空低く見えましたが、3月31日にq=0.84auの近日点を通過したあとは明け方の空にまわり、アンドロメダ座、カシオペヤ座、きりん座へと急速に北上し、春には天の北極近くで周極星として一晩中見ることが出来ました。

5月は晴天に恵まれ、周極星となった彗星を夕方と明け方の1日2回見ることが出来ました。特に、夕方の透明度の悪い時に淡くしか見えなかった彗星が、明け方の澄んだ空の下では尾がはっきりした明るい彗星として見え、観測条件による見え方の違いを強く印象づけられました。

当時の観測記録を見返すと、よく輝く内部コマの記述は多いものの、明るい彗星にありがちな、恒星状の核はほとんど見えなかったようです。今考えると、これは分裂彗星の特徴だったのかもしれません。この時は平凡な明るい彗星のひとつで、8年後、そして27年後に分裂彗星が発見されることになるとは思いもよりませんでした。

当時の16個の観測(同日の場合は明るいものを採用)から得られた光度式は、m1 = 6.07+5logΔ+10.74 log rでした。他の観測者の観測光度は、4月頃に5等級のピークがあったようです。その頃の私の観測値が6~7等と暗いのは低空だったためでしょう。グラフ中、赤丸が私の観測値で、COBSに掲載されている報告値を薄い青でプロットしてみました。

1988A1mag.png

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観測記録一覧

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初観測である。はじめのうちは1988aがあること自体疑わしかったが、彗星が伝染に引っかかった時、核もよく分かった。

(追記。2015年11月10日)スケッチの追記にもあるとおり、この1988年2月21日の観測は彗星の位置が異なるため見間違いのようです。地平ちかくの街灯の明かりがゴーストとなって、視野内で一瞬彗星状に見えたのかもしれません。当時の彗星位置を計算すると、視野円の左上の恒星(9等星)のすぐそばにありました。

1988年2月21日18時55分(TZ=+9)の小数表記:21.41319UT = 21.41384TT (ΔT=55.8s)
r=1.098au Δ=1.816au α=0h13.2m δ=+1°06'(2000.0)
高度 alt=12.2°/方位角 A=262.3°(西)


1988A1_002.png

あまり核はわからない。

(2015年11月10日追記)スケッチに書かれている恒星が同定できないことや、当時の観測条件(透明度)が極めて悪いことを考えると、この観測も疑問が残ります。この時の高度は8度しかなかったようです。

1988年4月9日19時20分(TZ=+9)の小数表記:09.43056UT = 09.43120TT (ΔT=55.9s)
r=0.859au Δ=1.453au α=1h05.2m δ=+43°01'(2000.0)
高度 alt=8.0°(大気差を補正した見かけ高度=約8.1°)/方位角 A=318.5°(北西)

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少ない時間ではあったが、はっきり見えた。核(内部コマ)は大きい。コマも大きい。二周運動ですぐに木の陰になって見えなくなった。

(2015年11月10日追記)スケッチにはほかに恒星が描かれていませんが、観測条件や、彗星が明瞭に描かれていることから、これは確実な観測かと思います。

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1988A1_010.png

08.46UT m1=7.0, DC=-, dia=9' (8.0cm屈折 46x)

目をこらすとかなり尾がわかる。核は意外に明るく鋭い中心部を見つけるのに苦労した(内部コマがかなり明るい)。コマの構造はOr.6(151倍)でも、わかるようでわからない。が、太陽の反対に尾の根があり、太陽側にジェットが見えたようだ、外部コマはかなり広がっている。(Liller~c星間の半分ぐらい)。光度は略図のBの星の合成等級くらい(少し彗星が明るい)。尾の一番濃いところは、外部コマの半径と同じ大きさ。その先にごく淡い尾。


(双眼鏡スケッチ)

1988A1_011.png

08.48UT m1=7.2, DC=-, dia=5' (5.0cmB 7x)

コマは小さい。核ははっきりしたものはわからないが、明るい。尾は小さいものが少し出て(濃い)その後ろに淡いものがある。尾は見にくいが、根元の方はよく分かる。Halleyの縮小版といったようだ。

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1988A1_012.png

08.78UT m1=7, DC=-, dia=5' (8.0cm屈折 23x)

薄明が早く来たので長くじっくりと見ていられなかったが、核を見つけるのが非常に困難。内部コマが目立つ。内部コマはちかくの恒星(複数)と同じぐらいなので8等とした。2つの恒星を覆う(または非常に接近)ように尾がよく見えた。もう少し早い時間に見たらかなり濃かっただろう。


(双眼鏡スケッチ)

1988A1_013.png

08.79UT m1=7, DC=-, dia=5' (5.0cmB 7x)

1988eは15分ほど探してもわからなかった。1987gは観測せず。この彗星1988aはついでに見たもの。しかし、尾がとても長く見えたのには驚いた。月明と薄明を感じさせなかった。コマは小さい。いつの間にか薄明が押し寄せてきたので大急ぎでスケッチをした。光度は正確に測定せず(空が真っ青なのに彗星は見えた)かつての1982iハレー彗星を思わせた。

1988A1_014-editPosi.png

1988A1_014.png

12.78UT m1=6.2, DC=-, dia=10' (8.0cm屈折 46x)

コマの大きさには驚いた。透明度がよい上に、月明がないのもその理由だろう。嫌でも尾が見えた。核は鋭いのが無く、内部コマの大きいのが目立った。光度は北側の星より0.2~0.4等低いと見積もった。Or.6では核らしいものが見えたようだが?尾は左側(西側)からのびているように見えた。コマの詳細は薄明のため分からず。


(双眼鏡スケッチ)

1988A1_015.png

12.78UT m1=6.3, DC=-, dia=10' (5.0cmB 7x)

かなり迫った薄明で、詳細不明だが、光度は北の星より0.3等暗いとした。尾は3時25分によく見えたが、あまり長くはなかった。

1988A1_016.png

13.51UT m1=6.3, DC=6, dia=7' (8.0cm屈折 46x)

朝より低い透明度のせいで、それほど尾は見えなかった。光度はAの星より0.3等、Bの星より0.4等それぞれ低い(但し恒星A、Bの光度はよくわからない)。Or.6では核はほとんど分からない。内部コマは明るい。構造は、コマの西側が複雑。Ω状である。


1988A1_017.png

13.53UT m1=6.0, DC=6, dia=5' (5.0cmB 7x)

光度はχの星と同じであったが、χの星自体何等だかわからない。星図によると5.75~6.25等なので、6.0等としておいた。しかし0.2等の誤差は含まれる。ごくうすい尾が見えた。核は不明。コマは小さい。

1988A1_018.png

18.51UT m1=8.0, DC=4, dia=5' (8.0cm屈折 46x)

かなり暗くなったように見える。光度は周りの星より少し明るいが、それらの星は星図に乗ってないので、彗星がかなり暗いことは確か。核が見えてきた。


1988A1_019.png

18.53UT m1=7.0, DC=-, dia=5' (5.0cmB 7x)

一見暗いが、実際はそれほどでもない。光度は←の合成等級くらい。核はほとんどわからない。尾はなし。

1988A1_023-editPosi.png

1988A1_023.png

04.49UT m1=8.6, DC=4, dia=4' (8.0cm屈折 46x)

予想に比べればそれほど暗くない。A'の星を8.1等としたら彗星は0.5等暗い。Aの星と同じくらい。コマはCo~A間の1/4~1/3。核はほとんど暗くわからない。辛うじて点状に暗く見える。尾はほとんど無いか、わずかに認められる?


1988A1_024.png

04.50UT m1=8.5, DC=-, dia=' (5.0cmB 7x)

わずかに連星状になった星の一方に見えるだけ。光度はその星と同じ。恒星と区別が付かない。

1988A1_025.png

07.51UT m1=9.2, DC=4, dia=5' (8.0cm屈折 23x)

光度は良い比較星が無く正確ではないが、暗めである。但し、9.2等という光度は0.1~0.5等上方修正のこともある。コマは暗い者の、大きさもありしっかりしている。核は結構明るかった。限界等級より0.2~0.5等明るい。しかし小さいことには変わりない。内部は8センチの限界か。ほとんどわからず。尾は無かった?