小惑星(588)AchillesによるHIP80140(7.4等)の食(減光)

2016年5月16日21時55分過ぎに予報されていた現象です。隠される恒星が7等と明るく、注目の現象でしたが、低空(当地で12度)で起きるものでした。しかも、当日のこの日は全国的な悪天候。日が沈んでも月や木星が晴れ間からやっと見える程度で透明度も悪く直前まで、減光どころか観測成立さえ期待していませんでした。

しかし、ダメ元でとりあえず望遠鏡だけでもベランダに置いておこうと、1時間前にセッティングを済ませ、念のため星図もプリントアウトして、夕食をとりはじめました。

もはや観測のことなど念頭にない21時23分頃、突然の地震が!震度4ぐらいだったでしょうか。なんとか大事には至らずに済みました。そして、様子を見に一応望遠鏡のところまで行って確認。なんともないようです。わずかに晴れ間があるので、ついでに対象星の位置を入力して望遠鏡を向けて見ると、視野は手前の住宅の屋根に見事覆われています。悪いことに、その屋根、右肩上がりになっていて、日周運動で星が昇っても、屋根の上に姿を見せないかもしれない・・・

それでもしぶとく待っていると、21時45分頃になって、ようやく視野を覆っていた屋根瓦がなくなりました。しかし今度はグレーの曇り空。星なんて1個も見えません。そうしている間に21時50分。まだ見えない、か、いや・・?視野の右端に1個星がある。これは対象星の右にあるはずの7等星かもしれない。コードレス電話で、117時報を鳴らしながらそのまま待機。ただ、このままでは星が暗いので、できれば(今つけている広視野の)62倍から100倍に変換したいと思い、100倍アイピースを手に持ちながらタイミングを計ります。

すると、21時53分過ぎになってうっすらと2つの星が見えだしました。このうちの左上の方が対象星です!もしかすると観測成立出来るかもしれない!?ベランダに重い望遠鏡を設置したのが無駄にならなかった!と思いながら、そのまま右手にストップウォッチ、左手に100倍アイピースを持ったまま監視体制に入りました。

監視中、ずっと念じていたことは「曇るな!」の1点。55分00秒、30秒の時報を過ぎても2つの7等星は雲に隠されず見え続けています。しかも、結構見やすい。これはいけるかも知れないと、少々安堵を覚えながら55分50秒の時報を過ぎた直後、対象星がスッと消えてしまいました。

「え!?」というよりは「え。」という感じで、冷静にストップウォッチのボタンを押し、隣の星が見え続けていることも確認。観測開始までが慌ただしかったので、正確な時刻も、継続時間も確認していませんでした。5秒程度だろうと思っていたところ、ほんの1秒程度でまた明るさが戻ってしまいました。またしても接食か?明るさが戻る直前、うっすらと星が見えた気がしますが、定かではありません。

減光はいつもの食のようなパターンで、確実だろうと思いつつも、雲も多かったためわずかに不安を感じながらも観測を継続。その後22時00分までの間、2つの7等星が雲に隠されることは1度もありませんでした。ふだんであれば、21時57分程度に切り上げるところですが、トロヤ群小惑星であり軌道精度が悪い可能性が指摘されていたので(減光が衛星だった可能性もあるので)、長めに監視しました。

録音中の携帯とストップウォッチを部屋に持ち帰り、電話を掛けて時刻を確認しましたが、その時うっかり100倍アイピースも手に持ったままでした。

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この記事を書き終わって空を見上げると、月の場所もわからないぐらいの曇り空が広がっていました。今は単独観測にならないことを祈るばかりです。

今年に入ってから、観測が成立した4件の小惑星の恒星食はすべて減光観測で、なんと4連勝!(ほぼ確率がゼロの彗星を含めても4勝2敗)。まったく減光を観測できない時期もあったので、その分が束になってやって来ているのでしょうか。

以下、JOIN報告文より抜粋。

今夜の小惑星(588)AchillesによるHIP80140(7.4等)の食において、眼視で減光を観測しました。

天気予報は曇りで、実際ほぼ曇天でしたが、月や火星がうっすら見える程度には晴れ間があり、
まったく期待せずに、しかし一縷の望みから1時間前にベランダに望遠鏡を設置して観測に臨みました。
(設置した直後に震度4程度の地震があり、焦りました)

予報時刻である21時55分の直前まで、(自動導入で向けた先の)星は住宅の屋根の陰にあり、
屋根の上に星が昇った後も雲に覆われたままの視野を眺めて、ほとんど諦めていましたが、
2分前になって奇跡的に対象星と隣の7等星がはっきりと見えだしました。

いつ再び雲が覆うかもしれない不安の中で監視を続けていたところ、突然対象星が消えてしまいました。
その時、隣の7等星は見え続けていました。
数秒は続くと思っていたのに、ほんの1秒程度で明るさが戻りました。
減光はスパッと瞬間的ではなく、ほんのわずか時間が掛かったように思えました。
その後、観測終了時刻までは雲に覆われることはなく、対象星と隣の7等星は見え続けていました。

以上のような状況ですので、減光は確実だと思っていますが、雲による減光の可能性は捨てきれません。
予報精度が悪いかもしれないとのことでしたので、いつもより時間を延ばして監視を続けました。

観測地
  埼玉県坂戸市内
観測開始と観測終了の時刻
  2016年5月16日21時53分54秒~22時00分00秒(JST)
減光観測の有無
  減光開始 21時55分51.2秒(±0.3秒)
  減光終了 21時55分52.7秒(±0.3秒)
   反応時間として0.45秒を補正済み。
時刻保持の方法
  固定電話(IPではない)の117時報とストップウォッチによる。録音で概略の時刻を確認。
観測方法・機材
  ミード製 LX90-20 (20.3cm F10シュミットカセグレン経緯台・自動追尾)
  +SP32mm(62倍・視野50分角)による眼視観測

天候・観測条件 透明度1~2/5、シンチレーション2/5、雲量8/10、月明あり。

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昨日の(828) Lindemannia によるTYC 0841-01187-1の食は、対象星を見つけることが出来ず不成立、
4月15日の(474)Winchesterによる2UCAC 38766438の食も、対象星が暗すぎて見つけられず不成立でした。

[JOIN:16574] (588)Achillesによる7等星の食(減光@坂戸) 2016/05/16 23:33

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