(※この記事は当時の記憶を思い出して書いたものです。2006-01-01。)
2005-12-13の夕方22時前、小惑星(158)KoronisによるHIP 113028(6.9等星)の食を観測し、現象をとらえました。減光は約1秒間続きました。以下その時の模様を思い出しながら書いてみます。
改良予報の図を見ながら、6等星の食とはいえ低空だし食の幅が35キロではちょっと無理だろうなぁと思っていました。ソフトで高度をチェックすると、わずか10度。低空ですがなんとかなる高度です。正直な話、あまりに寒いのでやめようとも思ったのですが『観測しないで後悔するぐらいなら観測して後悔した方がマシ』という自分の信念に基づき、とりあえず準備だけは進めました。
星図のプリントアウトを済ませ、9時30分より少し前に準備。時計&ライト代わりにしてる携帯電話の電池残量の表示が1本少なくなっていましたが、せいぜい10分間だし大丈夫だろう~とあまり心配せずにそのまま持ち出しました。久々の小惑星による食の観測なのでストップウォッチも欠かせません。2、3回押す練習をしました。
いつものようにまず、観測機材一式を詰めたカバンと三脚を持って観測場所へ(自宅すぐそば)。三脚を設置したあとは、望遠鏡本体を物置部屋から持ち出して三脚にセットします。透明度の良い空に満月近い月がこうこうと地面を照らし出し、しかも目的星は西空の低空にあり、送電線が邪魔です。
現象15分前。目的星を導入。意外に星は明るく見えます。これなら何とかなりそうです。しばらく見ていると目的星が送電線に掛かりますが、明るい夜空をバックに線が浮かび上がるし、それによる減光は明らかに食によるものと区別できそうです。あとは食の瞬間に送電線に掛からないことを祈るばかりです。
現象数分前。録音用HDDレコーダーを起動させます。ちゃんと録音されていることを確認。
現象約3分前。携帯電話で117に掛けます。ボリュームを調整しながらHDDと一緒に望遠鏡の平台の上に置き、録音を開始。これで準備は万端。。。と、その瞬間、『ピピピ・・・』と電子音が。携帯の液晶表示を見ると『充電してください』と。電源を切って再度入れると戻ることがあるので、電源ボタンを切ろうとするのですが、受け付けてくれません。携帯はあきらめて、正確な時刻をリアルタイムで知ることが出来ないまま観測を続けることにしました。約2分前。
手袋を外した両手でストップウォッチのボタンに指を掛けた状態で待つこと約1分。パッと星が消えました。いままでの食とは違ってまさに瞬間的に消えたように感じました。
意外と冷静な状態で右手でボタンを押しました。
『まだ消えてる』『まだ消えてる』と思いながら凝視していると、またパッと星が現われました。また冷静に今度は左手の指でボタンを押しました。
しかし、ここでひとつ失敗をしてしまいます。それは、観測できたことへの驚きと『すぐに117で時刻を求めなければ』という思いが交錯して一瞬アイピースから目を離してしまいました。その間数秒。。これは報告していなかったですね(汗 気を取り直してすぐに目を戻しましたが。
観測機材を放置したままで急いで家に戻り、117に掛けて時刻の算出を始めましたが、慌てているせいで暗算がうまく出来ません。これはいつものことですけどね。しかし、反応差(いわゆる個人差)は0.4秒でかなり安定していました。それにmixiに書き込む余裕さえも。
遅い夕食をとり、風呂に入ったら24時を回っていたので、とりあえず寝ました。なんせ久々の観測だったので、報告メールの文面をどうするか若干悩んでたので。送信記録によると、翌日の夕方にのんびりと送ったみたいですw
観測の概要
- 観測地と、観測地の経緯度と標高,測地系
- 埼玉県坂戸市内 139o27'02"、35o56'45"、21m 国土地理院1/25000地形図より(日本測地系)
- 観測開始と観測終了の時刻
- 13日21時57分30秒~21時59分
- 減光観測の有無
- 明瞭な減光(消失)を確認。
- 減光の時刻
- 消失 21時58分14.5秒(+/-0.3秒) 出現 21時58分15.5秒(+/-0.3秒) 継続時間1.0秒(+/-0.3秒) 反応差(0.4秒)を考慮。
- 時刻保持の方法
- 時計のストップウォッチ機能と、117時報(固定電話)による。 観測時は[HDDレコーダーによる]録音も行いましたが、時刻決定には使用していません。
- 観測方法・機材
- ミード製 LX90-20 (20.3cm f10シュミットカセグレン経緯台・自動追尾) +26mmアイピース(77倍)による眼視観測
時刻決定の誤差は、観測直後に反応差を測定した時にほぼ0.4秒で安定していたのですが、1回だけ0.7秒もあったのであえて幅を持たせました。気分的にはもう+/-0.1秒としたいところです。
この小惑星の直径からすると、下手をすると単独観測か!?と心配しましたが、自分を含めなんと7箇所で成功したらしい。わずか40キロ足らずの小惑星の形がこんなにも明らかになるなんて!と思いながら、ワクワクテカテカしながら眺めました。消失、出現が瞬間的に感じたのは小惑星の速度が速かったためのようです。